2009年5月12日火曜日

ビル・トッテン

ビル・トッテン
金融機関にのっとられた国

大統領選挙期間中、オバマ氏が集めた選挙資金の総額は約693億円で、これは前例のない最高の集金力であった。もちろんゴールドマンサックスやシティグループといったウォール街の金融機関からの献金が上位を占めたことは言うまでもない。

それが奏功した、となると政治献金とはすなわち買収と同じだということになる。援助交際が売春であるのと同じように、企業が政治家にお金を提供するのは賄 賂以外に何があるだろう。オバマ政権が金融機関救済に新たに7,500億ドル(約73兆円)を投じるのはその御礼ではないか。それは日本の国家予算にも等 しい金額だ。

オバマ政権が議会に提出した(2009年10月1日から始まる)2010年度の予算は3兆9,400億ドルで、歳入が2兆3,800億 ドルと見込まれていることを計算すると、1兆7,500億ドルの大赤字である。イラクやアフガニスタンの戦費である防衛予算は5,340億ドルで、さらに 補正予算として1,300億ドルが追加されている。

オバマ大統領がウォール街に提供する7,500億ドルだが、昨年11月にはブッシュが7,000億ドルを支援していることを忘れてはな らない。つまり合計で1.45兆ドルがウォール街救済に使われる。さらに、もう一つの大きな支出は日本政府と同じく、アメリカ政府は巨額の借金を抱えてい る。その借金の利払いが1,640億ドルにものぼる。

戦費、ウォール街救済費用、借金の利子だけで、アメリカの税収2兆3,800億ドルの大部分が消える。これは国民皆保険の実現をめざす 医療保険改革や教育などの社会保障プログラムへの予算が大幅に減少することでもある。アメリカの個人の所得税税収は約1兆ドルで、ウォール街にはその 1.5倍の1.45兆ドルを支援するのがブッシュ・オバマ政権の真実の姿ではないだろうか。

オバマ大統領は演説で、国民皆保険、教育、再生可能なエネルギー、国家インフラへの投資を熱く語った。実現されれば、多くの国民が利益 を得ることになる。しかし現実は、公共サービスは民営化され、実体経済の停滞から、法人税、所得税が減収して財政危機はさらに悪化する。そして国有財産の 売却も進むだろう。

オバマ大統領にワシントンに呼ばれた麻生総理は、おそらく米国債を買い続けるよう命じられたのだろうし、日本や中国を訪問したクリントンも同じようなことを日中政府に伝えたに違いない。

では、アメリカの富はどこにいったのか。それはもちろんウォール街、救済を受けた金融エリートの手にわたった。1.45兆ドルを手にした ウォール街は、アメリカの国有財産を安く買い、または株価の下がった企業を買収し、民営化された事業を安く買う。日本のかんぽの宿と同じような仕組みであ る。

政府が救済したことで、アメリカの銀行が国有化されると報じるメディアがある。とんでもない。事実はその反対だ。政府が金融機関にのっとられた国。それがアメリカなのだ。

アメリカべったり、日本はどこへ

京都大学教授  本山 美彦



 つぶされた日本の銀行

 鉄鋼、造船、アルミなどはもうからない産業ですが、日本では大事な産業として銀行が支えてきました。一方、アメリカは全部捨てています。「もうからない 産業がつぶれていくのは当然だ」、これがアメリカの経済原則です。果たして、もうかる産業がいい産業で、もうからない産業が悪い産業でしょうか。
 お客が素人相手の場合はもうかります。その究極の産業は消費者金融です。大変もうかっています。一方、鉄鋼などは大事な産業ですが、もうかりません。新 日鉄は日本一の製鉄会社ですが、価格決定権は大口のお客であるトヨタが握っています。重要な産業はお客さんが専門家だから、もうからないんです。
 その大事な産業にお金が流れるシステムが日本にはありました。鉄鋼、造船などに長期に投資するために、日本興業銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀 行という、三つの長期の銀行ができました。中小企業には信用組合や信用金庫があり、大企業には大銀行と、金融機関の住み分けがありました。これが日本的な 金融でした。
 ところが、「間接金融はダメだ、直接金融こそ世界の流れだ」「日本の銀行は護送船団方式だから悪い」とアメリカにいわれて、橋本政権は金融自由化に踏み 切りました。一定の自己資本比率が要求されるBIS規制が適用され、日本の銀行はガタガタになりました。生命保険会社も一つ二つを除いて、例外なくアメリ カの生命保険会社になりました。
 日本長期信用銀行は破たんさせられ、結局アメリカの投資会社に売られ新生銀行になりました。投資会社が銀行を経営する目的は、企業に融資するためではあ りません。世界中の金持ちに投資を呼びかけ、銀行を安く買って財務内容を急速に改善し、高く転売してもうけるためです。しかも日本の政府は新生銀行と瑕疵 (かし)担保条約を結びました。債権が二〇%値下がりすれば担保価格で国が買い取るという条約です。そごうが傾いたとき、新生銀行は支援せず、倒産に追い 込みました。新生銀行は過酷な貸しはがしを行い、多くの企業が倒産させられました。つまり、新生銀行にとっては企業を再生させるよりもつぶした方がもうか るからです。最終的にはシティバンクに転売されます。ボロもうけです。
 同様に日本債券信用銀行も破たん、一時国有化をへて『あおぞら銀行』となりましたが、米投資会社・サーベラスに売られました。

 国境を越えた買収

 最近、コーポレートガバナンス(企業統治)という言葉が使われます。なあなあムードの日本型経営では株主に責任がとれない、アメリカ型の企業統治が必要 だと、会社の経営・執行と会社の監視を分け、その監査委員会を外部の人で構成すれば、会社の不正を防ぎ近代的な企業統治が行えるという考え方です。
 これはまったくの嘘です。外部監査といっても、選ぶのはその会社の社長であり、会社に批判的な人を選ぶはずがありません。選ばれた外部監査人は会社から多額の報酬をもらうので、会社に都合のいい監査をします。この制度でアメリカでは不正経理が続出しています。
 アメリカ型の企業統治の本当のねらいは何か。日本型の企業統治では、株式の発行・増資は株主総会の承認が必要です。勝手にやると株主訴訟を起こされます。会社の執行役員が、株主総会の議決をへずに、臨機応変に株式の発行や増資ができるのがアメリカ型の企業統治です。
 なぜそうするのか。通信や電力などが規制緩和され、企業の買収や合併がさかんになりました。例えば、A社が一億円でB社を買収する場合、A社はB社の株 主からB社株式を一億円で買い取ります。そのため大規模な買収は容易ではありませんでした。そこで登場したのが株式交換による買収です。株式交換による買 収では、一億円分のA社株式を発行して、一億円分のB社株式と交換することで買収が成立するわけで、現金は必要ありません。しかも株式交換をする時点で、 買収する側のA社株が高く、買収相手のB社株が低いほど有利です。そこで、あらゆる手段を使ってA社は自社株を引き上げ、買収相手のB社株を売りまくって 下げる。そうすれば「濡れ手に粟」で買収ができるのです。これが株式交換制度です。
 株式交換による買収では自社株の発行や増資が必要ですが、一年に一回の株主総会は待てません。会社の監査機関と取締役会と執行機関と分離するのは、臨機応変に株操作することが本当のねらいです。本当のねらいを隠すために「アメリカ型が近代的だ」といわれているわけです。
 アメリカは国境を越えた(クロスボーダー)株式交換制度を導入するよう日本に要求してきました。六月に出された二〇〇三年日米投資イニシアティブ報告書では条件付きで「株式交換制度を採用する」ことを認めました。来年には条件も外されるでしょう。
 私はストックカランシーと呼んでいます。ストックカランシー批判をテーマにした『株価資本主義の克服』という本を十一月に出します。
 「アメリカの企業に日本の企業が買収されることで日本経済の近代化が始まる」、これがいま進められている構造改革です。日本人は怒らなければダメだと思 います。歴代の自民党政権の中で小泉政権ほどアメリカの言いなりの政権はありません。アメリカの政策にこれほど従う経済学者は、竹中さん以外にそうざらに いません。はっきり言って売国奴です。竹中おろしが強まっていた今年九月、IMF(国際通貨基金)の日本に対する金融査察報告書が出ましたが、竹中改革を 全面支持する内容です。IMFは国際機関とは名ばかりで、アメリカの言うことを唯々諾々ときく機関です。IMFのお墨付きが出た瞬間に、小泉さんは竹中留 任を決め、与野党の批判もおさまりました。

 危機的なアメリカ経済

 冷静に分析してアメリカ経済はもうダメだと思います。理由は、ろくな品物を作らずに、他人の金でやっているわけで、そのツケが回ってきています。すでに アメリカは世界最大の貿易赤字国であり、世界最大の借金国です。またアフガンやイラク戦争の戦費、大金持ちへの大減税で国家財政も赤字に転落しています。 いわゆる「双子の赤字」です。日本が貿易で稼いだお金や日本人の資金が日本国内ではなく、アメリカの国債や株などに回っています。つまり日本のお金がアメ リカを支えているのが実際です。アメリカ経済に不安を感じて、ドイツやフランスがアメリカから資金を引き上げています。ドル暴落の危険性すらあります。
 アメリカの景気をかろうじて支えているのは低金利政策です。低金利によって住宅販売が増えました。日本では住宅金融公庫が個人に貸し付けますが、アメリ カでは政府系金融機関が個人に直接住宅ローンを融資しません。民間銀行の住宅ローン債権を政府系の公庫が買い取って、証券として投資家に販売しています。 ところが金利が下がっているので、個人は住宅ローンの借り換えを何度も行うため、以前の金利の高い債権が売れ残っています。その上、それを持っていたドイ ツやフランスが投げ売りしています。この損失をどう穴埋めするか、深刻な問題です。
 それを支える国として日本がねらわれています。ブッシュが十月に訪日しますが、要求しているのはイラクの戦費負担だけではありません。どうやって日本か ら金を巻き上げるか。ドル安つまり円高政策です。円高になると日本政府は必死で円を売ってドルを買います。買ったドルをどうするか。これまではアメリカの 国債を中心に買っていましたが、今は住宅ローンの債権を買っています。膨大な日本のお金がアメリカに流れ、しかも売れなくて困っている債権を買っていま す。ここまで屈辱的で植民地的な経済政策をやっています。「構造改革なくして成長なし」と言いながら、危機的なアメリカ経済を支えているのが現状です。

 日本の生き残る道

 どうせひっくり返るアメリカにしがみつくことはやめましょう。これからは伸びるアジアです。日本もアジアの一員です。経済的にも大国になってきた中国を はじめ、アジアの国々と仲良くして協調していく。アジアと心中する覚悟をすれば、日本は生き残れると思います。アメリカと心中するなんてイヤだと声を出そ うではありませんか。
 総選挙が迫っていますが、私たちにとって二大政党制に希望があるでしょうか。幻想だと思います。小泉改革で、日本の経済政策が歪められ、日本人の富がア メリカに取られています。一方、小沢さんのいる民主党も自民党以上にアメリカべったりです。民主党はアメリカの広告代理店と契約し、人々の心をどうつかむ か、そんなことだけに力を注いでいます。「小泉支持六〇%」という世論調査は疑うべきだと思います。世論操作に惑わされず、正しい情報を得る努力をしなけ ればなりません。
 もういいかげんに、アメリカの言いなりの経済政策をやめて、アジアの中で協調する生き方を選択すべきだと思います。
 (九月二十八日、国民連合・神奈川の記念講演要旨。文責編集部)